SINGLEMAN’S HOTEL LIFEへようこそ。 ホテルを起点に世界を旅し、その土地で出会った景色や建築、食や文化──そんな旅の破片を綴っている。
今回は、長野にあるホテル「ホテル ドゥ ラルパージュ(HÔTEL de L’ALPAGE)」のダイニング「ル・ジャルダン(Le Jardin)」のディナーをお届けする。これまで、このホテルの滞在記事は3度お届けしているが、今回はメインダイニングにフォーカスしてお届けしたい。なお、この日のディナーはホテル主催のイベント時のもので、通常のディナーとは異なる。
それでは、行ってきます。
旅の情景

そこは人里離れた森にぽつんと佇むレストラン。
この日のためだけにグランメゾンから集められたメートルとソムリエ。
そして、7名の見知らぬゲスト。
まるで、アガサの小説のような始まり。


7名同じタイミングにお皿が供される。
ゲストと同じだけのメートルがいることに背筋が伸びる。


今夜の主役。
全員が固唾を飲んで、ソムリエの手元を見守る。




晩餐の余韻。
Season – Autumn, 2025
テーブルの記憶
この夜のことを思い返すとき、最初に浮かぶのは料理ではなく、ひとつのテーブルだ。この日のゲストはわずか7名。僕を含めて3組、それぞれ面識のない者同士がひとつのテーブルを囲んだ。そして、この夜のために、グランメゾンから集められたメートルたち。
テーマはジビエ。エスカルゴと茸、鴨胸肉のスモークに始まり、うさぎのテリーヌ、フランス産の仔鳩へと続く。そしてメインには、北海道産の蝦夷鹿が骨付きの大きな塊のまま豪快に焼き上げられ、僕たちの前に姿を現した。厨房で完成した一皿が運ばれてくるのとは違う。大きな肉の塊にナイフが入り、一人ひとりの皿へと仕立てられていく。その一連の美しい所作までが料理のようだった。
そして、この夜の空気をつくっていたのが、伝説的なソムリエであるムッシューだった。知らない者同士が一卓を囲むのだから、少しくらい居心地の悪い時間があっても不思議ではない。けれど、そうはならなかった。馴れ馴れしいわけではない。グランメゾンらしい、少し背筋が伸びるような緊張感はきちんとある。それでいて堅苦しくもない。いつの間にか初対面のゲスト同士に会話が生まれ、ひとつのテーブルをみんなで楽しんでいた。サービスとは料理を運ぶことだけではなく、その場の空気をつくることなのだと、この夜に知った気がする。
ワインも特別だった。ムルソーにニュイ・サン・ジョルジュ。そしてグラスには、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティのエシェゾー1979が注がれた。飲み終えると、「もう少しいかがですか」と、再びグラスを満たしてくれる。もっとも、僕はワインに詳しくない。これほどのワインを前に、その真価をどこまで理解できていたのかと聞かれれば、正直なところよく分からない。それでも、この夜が素晴らしかったことだけはよく覚えている。
そして最後に、もうひとつのサプライズが待っていた。シャトー・デュクリュ・ボーカイユ、1925年。ちょうど100年前につくられたワインだ。自分が生まれるよりもはるか昔、まだ見ぬ時代につくられたワインが、100年の時間を越えて、冬の蓼科で見知らぬ7人のグラスに注がれている。「涙が出そうになった」というムッシューの言葉が心に残った。
振り返れば、希少なワインも、蝦夷鹿も、もちろんこの夜を特別なものにしていた。けれど、一番記憶に残っているのは、それらが置かれていたテーブルなのかもしれない。見知らぬ7人が同じ料理を待ち、同じワインに驚き、いつしか言葉を交わしている。料理人が料理をつくり、メートルがそれを仕上げ、ソムリエがワインを注ぐ。そして、その間を流れる時間までが一つの晩餐になっていく。
僕がレストランの記事を書くときに使っている「テーブルの記憶」という言葉。その原型になったのは、もしかするとこの夜だったのかもしれない。冬の蓼科の森の中に、一夜だけ現れた小さなグランメゾン。僕が覚えているのは、そこで飲んだワインの味以上に、あのテーブルを囲んでいた時間なのである。
予約ガイド
このレストランは以下の予約サイトで取り扱われており、レストランのみの利用も可能だ。
※本ページにはアフィリエイトリンクを含みます。
レストラン基本情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| レストラン名 | ル・ジャルダン(Le Jardin) |
| ホテル名 | ホテル ドゥ ラルパージュ(HÔTEL de L’ALPAGE) |
| ジャンル | フレンチ |
| 予算 | 20,000~30,000円/人(通常時) |
| 営業日 | ディナー:18時~22時 |
| 所在地 |
長野県茅野市北山4035-1820 |
終わりに
ル・ジャルダン、いかがだっただろうか?身に余る晩餐だったが、同時に豊かな時間だった。レストランのみなさま、迎えてくださってありがとうございました。
この記録があなたの旅の参考になれば嬉しい。
