SINGLEMAN’S HOTEL LIFEへようこそ。 ホテルを起点に世界を旅し、その土地で出会った景色や建築、食や文化──そんな旅の破片を綴っている。
前回、フランスのパラスホテル「ル ブリストル パリ(Le Bristol Paris)」の宿泊記をお届けしたが、この「パラス」というのは一体何なのか、5つ星ホテルとは何が違うのか、どんなホテルがこの称号を得ているのか・・・今回は、この謎めくパラスホテルについてお届けしたい。
フランス最高峰のホテル「パラス」とは?
ホテルには、さまざまな評価軸がある。星の数、サービス、レストラン、スパ、客室の広さ──。けれど、そのような目に見えるものだけでは語り尽くせないものもある。その土地の歴史を背負い、街の記憶を映し、旅人の目的地になるホテル。
フランスは、そんな存在に「パラス(Palace)」という名前を与えた。
パラスは、厳密には5つ星より上のホテルという意味ではない。5つ星ホテルのなかでも、その土地を象徴する文化的な存在にだけ与えられる国家認定である。建築や歴史、美食、芸術、ホスピタリティ。そして、そのホテルでしか生まれない空気までが審査の対象になる。言い換えれば、パラスとは「フランスという国が誇るホテル文化のコレクション」なのだ。
2024年にはこのパラス制度が見直され、認定期間はそれまでの5年から3年へと短縮され、より厳格化された。そして2026年6月、新制度のもとで初となる「Collection Palace 2026」が発表された。27軒が認定を更新し、新たに6軒が加わった一方、4軒はその名を連ねなかった。ホテルもまた、街と同じように変化し続ける。だからパラスは、完成されたリストではなく、時代ごとのフランスを映す鏡ということもできるかもしれない。
2026年、フランス・パラスホテルの全33リスト
今回の発表された「Collection Palace 2026」は次の通りだ。ホテル名、所在エリア、新規認定か更新かの基本情報に加え、ホテルをイメージとして連想できる一言を付け加えた。
| ホテル | エリア | 新規/更新 | SHL的キーワード |
|---|---|---|---|
| Bvlgari Hotel Paris | パリ | NEW | イタリアの美意識と現代パリ |
| Cheval Blanc Paris | パリ | NEW | セーヌと都市の再生 |
| Fouquet’s Paris | パリ | NEW | シャンゼリゼの社交文化 |
| Four Seasons Hotel George V | パリ | 更新 | 花と美食のグランドホテル |
| Hôtel de Crillon | パリ | 更新 | コンコルド広場の宮殿 |
| Hôtel Plaza Athénée | パリ | 更新 | オートクチュールのパリ |
| La Réserve Paris | パリ | 更新 | 静かな邸宅とプライバシー |
| Le Bristol Paris | パリ | 更新 | 庭とフランス的エレガンス |
| Le Meurice | パリ | 更新 | 王宮とアーティストの遊び心 |
| Mandarin Oriental Lutetia Paris | パリ | 更新 | 左岸の文学とアール・デコ |
| Royal Monceau – Raffles Paris | パリ | 更新 | 現代アートと映画 |
| Shangri-La Paris | パリ | 更新 | 王族の邸宅とエッフェル塔 |
| The Peninsula Paris | パリ | 更新 | 旅の黄金時代と精密なサービス |
| Airelles Courchevel | クールシュヴェル | 更新 | 山上のフランス幻想 |
| Cheval Blanc Courchevel | クールシュヴェル | 更新 | 静謐な山岳モダニズム |
| Fouquet’s Courchevel | クールシュヴェル | 更新 | 映画的なアルプス |
| Four Seasons Resort Megève | ムジェーヴ | NEW | ロスチャイルド家が育てた雪山文化 |
| Hôtel Royal Évian | エヴィアン | 更新 | レマン湖とベル・エポック |
| L’Apogée Courchevel | クールシュヴェル | 更新 | 家族で過ごす山頂の邸宅 |
| Le K2 Palace | クールシュヴェル | 更新 | ヒマラヤ幻想とアルプス |
| Airelles Gordes, La Bastide | ゴルド | 更新 | 石造りの村とプロヴァンス幻想 |
| Airelles Saint-Tropez, Château de la Messardière | サントロペ | 更新 | シャトーと地中海の祝祭 |
| Château Saint-Martin & Spa | ヴァンス | 更新 | オリーブの丘と静かな南仏 |
| Cheval Blanc Saint-Tropez | サントロペ | 更新 | 海辺の静謐と現代アート |
| Grand-Hôtel du Cap-Ferrat | カップ・フェラ | 更新 | 白亜の宮殿と地中海 |
| Hôtel du Cap-Eden-Roc | アンティーブ | 更新 | 映画と伝説のリヴィエラ |
| Hôtel Martinez | カンヌ | NEW | アール・デコとカンヌ映画祭 |
| La Réserve Ramatuelle | ラマチュエル | 更新 | 海を望むミニマリズム |
| Villa La Coste | プロヴァンス | 更新 | 建築・アート・ワイン |
| Les Prés d’Eugénie | 南西フランス | 更新 | ミシェル・ゲラールと美食の里 |
| Les Sources de Caudalie | ボルドー | 更新 | ブドウ畑とウェルネス |
| Royal Champagne Hôtel & Spa | シャンパーニュ | NEW | シャンパーニュを望む展望台 |
| Cheval Blanc St-Barth | サン・バルテルミー | 更新 | フレンチ・カリビアンの楽園 |
2026年、新たにパラスとなった6軒
今回新たに認定された6軒には、共通点がある。それは、単に新しいホテルでも、豪華なだけなホテルでもないということだ。都市を再生するホテル、歴史を受け継ぐホテル、土地そのものを旅の目的地へ変えるホテル。今回の認定は、「どんなホテルが良いホテルなのか」という問いに対する、現在のフランスからの一つの答えにも見える。この6軒について、もう少し詳しく見てみよう。
Cheval Blanc Paris|都市を再生するホテル

セーヌ川沿いに建つCheval Blanc Parisは、かつての百貨店サマリテーヌを再生して生まれたホテルである。ここでは、建物そのものがパリの歴史を語っている。歴史を保存するだけではない。現代建築やアートを重ね合わせながら、新しいパリの景色をつくっている。パラスに選ばれた理由は、豪華さだけではない。街の記憶を未来へつなぐ、その役割にあるように思う。
Bvlgari Hotel Paris|ブランドがつくる新しいラグジュアリー

Bvlgari Hotel Parisは、クラシックな宮殿ホテルとは対照的な存在である。ジュエラーとして培ってきた美意識を、そのままホテルへと持ち込んだ。石材、光、家具、アート。すべてがブランドの世界観で統一されている。パラスが歴史だけを評価する制度ではないことを、このホテルは静かに物語っているようだ。
Fouquet’s Paris|シャンゼリゼの記憶

Fouquet’sは、新しいホテルではない。19世紀から続くブラッスリーを中心に、映画人や芸術家が集まり、シャンゼリゼの歴史を見守ってきた場所である。今回の認定は、建物だけではなく、「社交文化そのもの」が評価されたようにも映る。
Hôtel Martinez|映画祭の街を象徴するホテル

カンヌを訪れたことがなくても、この白いファサードを見たことがある人は多いだろう。映画祭のレッドカーペット。クロワゼット通り。1929年から続くアール・デコ。Hôtel Martinezは、一つのホテルというより、カンヌという街のアイコンである。約100年の歴史を経てパラスとなったことは、このホテルが今も進化を続けている証なのだろう。
Four Seasons Resort Megève|雪山を旅するホテル

アルプスには、美しいホテルが数多くある。そのなかでFour Seasons Resort Megèveが評価された理由は、スキーリゾートだからではない。ロスチャイルド家が育ててきたメジェーヴという土地の文化を、ホテルという形で体験できるからだ。冬だけではない。夏の草原も、秋の森も、このホテルの景色になる。
Royal Champagne Hôtel & Spa|土地が主役になるホテル

今回の6軒のなかで、最もSHLらしい一軒を選ぶなら、このホテルかもしれない。目の前に広がるのは、シャンパーニュの丘陵。ホテルは、その風景を眺めるための展望台であり、その土地を知るための入り口でもある。ホテルが主役ではない。土地が主役だからこそ、このホテルは美しい。
パラス認定が更新されなかった4軒
一方、今回の更新で、2026年のパラスコレクションから外れたのは、Mandarin Oriental Paris、Park Hyatt Paris-Vendôme、Hôtel du Palais Biarritz、Hôtel Byblos Saint-Tropezの4軒である。
フランス政府は、個々のホテルが更新されなかった理由を公表していない。そのため、サービスの低下や施設の老朽化などを、外部から断定することはできない。ただ、パラスが一度取得すれば永久に保持できる称号ではないことは、今回の結果からも明らかである。
なお、Mandarin Oriental ParisとMandarin Oriental Lutetia Parisは別のホテルである。前者は今回認定を更新されなかったが、後者は引き続きパラスとして認定されている。名称がよく似ているため、混同しやすい点には注意したい。また、Ritz Parisについて、「なぜパラスに含まれていないのか」と疑問に思う人もいるかもしれない。Ritz Parisは、世界を代表するパラスホテルと称されることも多いが、現在の国家認定制度には含まれていない。これは、パラス制度は申請制であるが、Ritz Parisは、そもそも申請も行っていないためだ。Ritz Parisは独自の揺るぎない格式によって、パラスと呼ばれている。このように一般的な意味で使われる「パラスホテル」と、フランス政府による正式な称号「Distinction Palace」は、必ずしも一致しないのである。
SHL的に泊まるなら
パラスは、フランス政府が認めた最高峰のホテルである。けれど、ホテルの価値はパラス認定では決まらない。
Ritz Parisは制度としてのパラスではない。
Maison Proustもそうだ。
Hotel Costesも、この一覧には載らない。
それでも、世界中の旅人が彼らを目指す理由がある。ホテルとは、本来そういうものなのだと思う。だから私は、この33軒を「ランキング」としてではなく、「フランスという国を読み解くための33冊の本」として眺めたい。一軒一軒に、その土地の歴史があり、建築があり、人がいて、文化がある。
ホテルは眠る場所ではない。その土地を、最も濃く映し出すレンズなのである。
終わりに&次なる旅の破片
パラスコレクション、いかがだっただろうか?ホテルを通じてフランスの歴史や文化を感じることができる意義のある制度だと感じた。
この記録があなたの旅の参考になれば嬉しい。

さて、次回は今回お届けしたパリのビストロ「レ・ジャルダン・デュ・プレズブール(Les Jardins du Presbourg)」をお届けする。凱旋門近くの賑やかなビストロだ。
お届けは2026年8月22日予定だ。もし、この旅を気に入っていただけたなら、読者登録して、新しい旅の破片もそっと受け取っていただけると嬉しい。
では、また旅のどこかで。
