世界のホテル滞在レビュー#33|ペラ パレス ホテル|イスタンブールの夜明け、その時代の証人

SINGLEMAN’S HOTEL LIFEへようこそ。 ホテルを起点に世界を旅し、その土地で出会った景色や建築、食や文化──そんな旅の破片を綴っている。

今回は、トルコのイスタンブールにあるホテル「ペラ パレス ホテル(Pera Palace Hotel)」の滞在レビューをお届けする。ペラパレスは1892年開業したホテル。その目的はただ一つ、オリエント急行の終着地・イスタンブールに到着したヨーロッパの貴族や知識人を迎えるためだ。そんな歴史とロマンがある名門ホテルこそイスタンブール旅のスタートに相応しい。

それでは、行ってきます。

目次

旅の情景

深夜の回廊に、言葉にならない気配が満ちる。
シャンデリアは光を落とし、影が主役になる。
遠くのクラクションさえ、物語の一部。
このホテルは、眠らない記憶を抱いている。

夕刻、渋滞する街に鳴り響くクラクション。

ようやくホテルに到着した時には長旅の疲れでクタクタだ。

今日はもう休むと決めてチェックインを。

案内されたのは最上階の部屋。

真鍮の取手、幾何学の擦り硝子、深い赤-

やわらかな灯りがそれらを艶めかしく照らす。

バルコニーに出ると吐く息が白い。

遠くにはモスク、どこからともなくアザーンも響く。

非日常の景色と音色。

なんとも言えない色気。

滞在中、意味もなくこの階段を上り下りしていた。

誰かの足跡を辿るように。

しんと静まり返った回廊。

時折階下から響く異国の言葉が、宙を漂う。

意味をなさない音が子守歌のように眠りへと誘う。

冬の朝は遅い。

まだ人気のないレストランへ。

流れるクリスマスソングに心が弾む。

アーチとさんかくのコンポジション。

アーチは外へと向かい、さんかくは内へと潜る。

そんな感覚。

Season – Winter, 2025
Room Category – DELUXE PERA KING ROOM

ホテルについて

1892年、パリとイスタンブールを結ぶ豪華列車オリエント急行の乗客を迎えるため、イスタンブールのペラ地区に一軒のホテルが誕生した。ペラ パレス ホテルである。

設計を手がけたのは、イスタンブールを拠点に活躍した建築家アレクサンドル・ヴァローリー(Alexandre Vallaury, 1850年 – 1921年)。1895年に開業したホテルには、ネオクラシカル、アール・ヌーヴォー、オリエンタリズムの要素が織り込まれ、当時のヨーロッパとオスマン帝国の文化が交差するペラの国際的な空気が映し出されている。

19世紀末のペラパレスは、各国の大使館や商館、劇場、カフェが集まる西洋文化の窓口だった。ホテルはそんな街の社交と交流の舞台となり、外交官や芸術家、作家たちを迎え入れた。アガサ・クリスティやアーネスト・ヘミングウェイも、このホテルにゆかりのある人物として知られる。

また、トルコ共和国の建国者ムスタファ・ケマル・アタテュルクが滞在した101号室は、現在、彼を記念する部屋として保存されている。オスマン帝国末期から共和国の成立へと移り変わる時代を、ホテルはその傍らで見つめてきた。

オリエント急行が運んだ旅人たちの記憶と、都市の近代化の歴史。ペラパレスは単なるクラシックホテルではなく、イスタンブールが東西の文化を交差させてきた時代の証人でもある。

シングルマンシュラン🌟🌟🌟🌟— 8.7 / 10 Outstanding


シングルマンシュラン定義
🌟🌟🌟🌟🌟: その国/地域に行く目的になるホテル
🌟🌟🌟🌟  : その国/地域を訪れた際は泊まりたいホテル
🌟🌟🌟    : その国/地域を訪れた際は候補の1つとして検討したいホテル
🌟🌟    : その国/地域を訪れた際に他に候補がなければ選んでもよいホテル
🌟      : その国/地域を訪れても選ばないホテル

※詳細な評価基準についてはこちらを参照してほしい。
※これまで訪れた全ホテルのレビュースコアをまとめたものはこちらを参照してほしい
。


このホテルは夜が素晴らしい、と思う。華やかな社交の時間が終わったペラパレスは、束の間の静寂が訪れる。その静寂の中を歩くとコツコツと響く足音が、今この空間に自分しかいないことを教えてくれる。にぶいオレンジの光が生む影は濃く、吸い込まれそうな闇を湛える。そこにはきっとこのホテルの記憶が潜んでいるのだ。その深淵を覗くとき、ここでの滞在がきっと特別なものになる。

評価詳細(各5点満点)

コストパフォーマンス:3点

イスタンブールのホテル料金は、東京と比較すると、相対的にはリーズナブルではあるものの、円安の影響もあり、そこまで安くは感じない。とはいえ、イスタンブールの外資ラグジュアリーホテルと較べると手は届きやすい(ペラパレスは日本でいうとオークラや帝国ホテルのような位置づけのホテルと言えばわかりやすいだろうか)。

アクセス:4.5点

ペラパレスはヨーロッパ側の新市街地であるベイオール地区に位置する。イスティクラル通りやタクシム広場などにほど近く観光の拠点にするには非常に便利。地下鉄の駅も近い。

ソロフレンドリー:4点

文化人たちが滞在する場所として愛されていたことからもわかるように、ひとりで静かに滞在するのにぴったりだ。確かにホテルが面した通りは賑やかだし、ロビーも多くの人が出入りしているが、そこから客室エリアに入るととても静か。

そして部屋での時間もまたひとり向き。なぜだかデスクに座って物書きでもしたくなる。アガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』はここで執筆されたと言われているが、彼女もきっと、そんな感覚があったのではないだろうか。ペラパレスを愛した文化人たちのように、筆を走らせてみるのも良い。筆が止まった時はオリエンバーで一杯。きっと素晴らしいインスピレーションが降りてくる。

キュイジーヌ:3.5点

朝食のみ利用。

トルコのホテルは、とにかく朝食のボリュームがある。朝食をしっかり食べたら少なくとも昼食はいらない。トルコ語で朝食は「Kahvaltı(カフヴァルトゥ)」と呼ばれるが、語源は kahve(コーヒー)と altı(下・前)で、もともとは「コーヒーを飲む前に食べるもの」という意味があるそう。伝統的な朝食としては、①数種類のチーズ、オリーブ、②トマト、キュウリ、ハーブなどの生野菜、③蜂蜜、クロテッドクリームに似たカイマク、各種ジャム、④パン、シミット(ゴマをまぶしたリング状のパン)、⑤卵料理、スジュク(スパイス入りソーセージ)などであり、どのホテルもこれらをベースにした朝食だった。

アガサ・クリスティの名が冠されたペラパレスのダイニング「アガサ・レストラン」でいただく朝食もそうだ。セミブッフェスタイルだが、ブッフェの種類がとても豊富。例えば、チーズやオリーブだけでもたくさんの種類がある。それらが、美しく盛り付けられた様子は目にも美味しい。あれもこれも試したいが、とてもじゃないが1日ですべてを味わうのは無理だ。ぜひ何泊かして色々と試してみてほしい。

クリーンネス&ファシリティー:4点

2010年に大規模な改修がされており、当時の雰囲気は残しつつも古さは感じない。清楚も行き届いており、気持ちよく過ごせる。レストランのほか、ラウンジやバー、パティスリーもあり、気軽に利用できるのでホテルに籠って過ごすのも良い。101号室は、トルコ建国の父であり初代共和国大統領のムスタファ・ケマル・アタテュルクに関する博物館として公開されており、こちらも見逃せない。

ホスピタリティ:3点

完璧に磨かれたラグジュアリーではなく、時間が染み込んだ静かな威厳を味わうホテルだと思う。ホスピタリティなどのソフト面はやや弱いと感じる。それなりに規模も大きいホテルでゆえ、スタッフも幾分忙しなく、どうしてもゲストを捌いているという印象を受けてしまう。

そういえば、こんなこともあった。ラウンジでお茶をしたときに、部屋付けをお願いしたのだが、「できない」と言われてしまった。クレジットカードを登録していないから、という理由らしいのだが、手持ちもなかったため、じゃあ部屋に戻ってクレジットカードを取ってくる、というと「ダメ」、という(逃げる可能性があると思われているのだろうか?)。結局スタッフがカード決済端末をもって、部屋まで来るというノットエレガンスな体験。エレベーターの中で若干きまずい時間が流れていた。デポジット用のカードを登録しているかどうかに関わらず、部屋付けを断られたのは初めての体験だったので、良い勉強にはなった。

センス&ユニークネス:4点

2008~2010年に大規模修繕工事がなされているが、建築家アレクサンドル・ヴァローリーによる当時のクラシカルで重厚な雰囲気は現在も色濃く残されており、タイムスリップしたような感覚にもなる。ヨーロッパとオスマンが融けあった建築様式や、トルコ最古の木製エレベーターなど、見どころも多い。それに加え、イスタンブールの激動の歴史を見つめてきたホテルだけに新しいホテルには真似できない時間の重みがあり、それがこのホテルを唯一無二なものにしている。

アガサ・クリスティ、グレタ・ガルボ、ヘミングウェイなどの名前が冠された部屋やスイートもある。それぞれ特別仕様の内装になっており、より特別な滞在を求める方にはおすすめだ。

おそらくトルコの人々にとっても、このホテルは特別な場所なのだ。エントランスにはドレスアップした人たちがたくさん出入りしており、ソファに座ってその光景を見ているのも楽しい。このホテルを舞台にしたNetflixのドラマ『ペラパレスの夜更け(Midnight at the Pera Palace)』を見ても、ここが古くからトルコ屈指の社交の場所だったことが見て取れる。ホテルを美しく撮った作品なので滞在予定の方は見ておくとより心に残る滞在になるだろう。

予約ガイド

このホテルは複数の予約サイトで取り扱われている。使い慣れたサイトからチェックしてほしい。

※本ページにはアフィリエイトリンクを含みます。
※予約サイトの考え方はこちら


ホテル基本情報

項目 詳細
ホテル名 Pera Palace Hotel(ペラパレスホテル)
プライスカテゴリー ミドル
客室数 約115室
食事
  • アガサレストラン:トルコ料理がベース
  • オリエントバー&テラス:バーラウンジ
  • Kubbeli Lounge:伝統的なアフタヌーンティー
  • Patisserie de Pera:クラシックパティスリー
チェックイン/チェックアウト時間 チェックイン 15:00~ / チェックアウト ~12:00
特徴的な設備やサービス
  • 歴史的建築(1892年開業、オリエント急行の乗客用ホテルとして誕生)
  • 屋内プール、スパ(スチームバス、ハマムあり)
  • フィットネスセンター、ライブラリー
  • 歴史展示ルーム(アタチュルクや作家の客室展示など)
所在地 Mesrutiyet Cad. No:52, 34430 Beyoglu, Istanbul, Turkey

アクセス
  • 地下鉄トラム・シシャネ駅から徒歩約6分
  • イスティクラル通りやタクシム広場すぐの便利な立地
  • ガラタ塔やペラ博物館など観光スポットも徒歩圏内

終わりに&次なる旅の破片

ペラ パレス ホテル、いかがだっただろうか?イスタンブールの歴史と文化がぎゅっと濃縮された場所で、イスタンブールを感じるためのホテルだった。ホテルのみなさま、迎えてくださってありがとうございました。

この記録があなたの旅の参考になれば嬉しい。


さて、次回はトルコの偉大な建築家ミマール・シナンのモスク建築を巡る旅にお連れする。

お届けは2026年10月31日だ。もし、この旅を気に入っていただけたなら、読者登録して、新しい旅の破片もそっと受け取っていただけると嬉しい。

では、また旅のどこかで。

新しい旅の破片を、そっとお届けします。

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